やましたさんちの玉手箱
ジャックの記事
連載
01 60歳代で仕事がなくなるあなたへ
02 いつだって 監督の目を意識しろ
03 誰にだって、過去はある
04 家に帰り着く前の酒は なぜこんなに旨いのか
05 五度目の就職 ブルーカラーだ
06 私は清掃員か 清掃夫か はたまた清掃師?
07 言葉で教える、難しさ 例えばさあ
08 重力でゲロをコラエル 清掃こそが運動だ
09-1 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その一
09-2 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その二
10 大 しながら流す 小 座ってする あなたどっち派?
11 今時はやらないけど ウンコには紙だ
12 転職 清掃のプロに一歩踏み出す
13 ヒワイ ゲロ ウンコ 話の合う おばんたち
14 皆さん、床に落とした物は拾いましょう
15 口笛ふいてバキューム掛け 掃除に音楽は欠かせない
16 タバコとガムの捨て方 ゲロの吐き方 お教えします
17 でも しか じゃ掃除はできないぜよ
18 あとがき
Powered by fun9.net
TOP > ジャックの部屋 > からだにいい「清掃人」入門体験風

からだにいい「清掃人」入門体験風

14 皆さん、床に落とした物は拾いましょう

第十四章
オフィスのフシギ
五足の靴の物語


 エレベーターの扉と箱の中、看板、玄関入り口のテンパー、窓ガラス、この仕事場で新しく経験したのは壁面の清掃だが、やはり作業の中心は『床』ということになる。

 どんな小さなゴミも見逃さない、例えば空を舞うハヤブサが、広い草原に野ネズミを見つけて襲いかかる──いや、ハヤブサは言い過ぎか、盛り場のカラスがごみ袋から散乱した鶏の骨を見つける、といったところか。
 余談だが、ビルの周辺には飲食店も多く、早朝はカラスの食事時間。ビル外周にはカラスのフンがあちこちにあるのだが、なぜか鶏の骨、多分、中華料理店から出るスープの素になったと思われるが、ファストフードの店で出したチキンフライの残骸か。時々、子供の手ぐらいの手羽先が落ちていてギョッとすることがある。

 外回りの清掃は、このフンに悩まされる。モップで拭いてもなかなか落ちない。誰言うともないのだが、このあたりのカラスは食い物がいいので、フンも脂ぎっていてしっかりしている! デッキブラシでごしごしやっても落ちない時があって、最終兵器ケレン(四角いヘラ状のもので先端が刃のようになっている)でこそげ落とさなければならない。私は外回りをやっていて背中にフンを落とされたことが二度ある。気をつけるとカラスが止まっている所ははだいたい同じで、フンを落とそうとするところはフンが降ってくるところ、と心得なければならない。

 床の話にもどるが、ホールや廊下といった面は見えるゴミがあってもなくても、おしなべてバキュームをかければ問題ない。隙間なく、見た目3センチ程度がかさなるように、隅はバキュームの先端を取り外して吸引する、誰が見ていなくてもやる! 続ける! これはかなりくたびれる、根気がいる。

 ところで、オフィスの中に作業が進んでいくと机の下に落ちている様々な物に悩まされることが多くなる。先のS社での月に一度の定期清掃では、金融機関の床面で最も多かったのがクリップだった。通常ポリッショャーのあとでウエットバキュームで汚水を吸引するわけだが、作業の後でバキュームを水洗いすると、一度の作業で文具店で売っているゼムクリップ一箱分ぐらいのクリップが残ることになる。
 これはごみなのでもちろん廃棄することになるが、もったいないことである。要するに落としたクリップなどはいちいち頭を机の下に突っ込んで拾ったりしない、ということなのだ。

 今のビルで私が最も腹が立つのか楊子。飲食店内ならともかく、ライブハウスの事務所やスタッフルームでけっこう見られるのだ。毎日ゲームで点数棒代わりに使っているとも思えない、食事の後に使って落とすのだろうが、お前拾えよ! それとも食った後シーハーやってぶん投げたか? 
 そしてストローの袋、たばこの包装のセロファン。飲食の後始末がいかに悪いか、ということだが、ついでに言うと、床の黒いゴミ? シミ?と思ってバキュームをかけるとスッと消えるのが海苔(いちいち触ってからバキュームするわけではないし、口に入れたことももちろんないので、多分だが)。
 コンビニで買ってきたおにぎりを1、2,3の順序でセロファンをむしり取っていくときにその一部が落下するものとおもわれる。家で同じように落としたら、この人たちだって半分の人は拾うのじゃないか。どうせ清掃員が毎日来るんだからそのまんまでいいだろ、という心のセリフが聞こえてきそうだ。

 しかし、なぜ拾わない?と思うのがボールペンやサインペン。いわゆるステージなどのフリップとして使用することが多いだろう、ここの事務所の卓上はこの種の筆記用具が色とりどりたくさんころがっている。キャップの取れたペン類は拾ってキャップを捜すのだが、すでに乾燥していて使用できない物がほとんどだ。「官給品」は使い捨て、いや使わず捨て状態だ。

 おばさんたちと首をひねっていることがあって、オフィスの役員職と思われるデスクの下の立派な靴がその主役。常時五足の靴が揃っているのだが、いずれも黒い靴で一見してカジュアル風のものはない。どうしてなのか、おばさんたちと考えてみたのだが、一つは急に雨が降ってきた場合に履く「雨用の靴」。
 一つは急な不祝儀があったときのための「礼装用」、一つは足によくなじんだ柔らかい靴で地震などで徒歩帰宅しなければならなくなったときの「災害時ウォーキングシューズ」などと、かなり無理な予測も出てきたのだが、これ以上は考えつかないし、誰も手にとって見たわけではない。

 そこでわたしの解説! “これはね、家は奥さんに娘さん、おばあちゃんと女ばかりの家族で、靴箱にお父さんの靴を入れるスペースが取れない気の毒な人なのよ、でね、自分の靴を会社に持ってきていて、デスクの下が靴箱代わりなの”……と言ったらサブチーフのおばさん“それじゃあんたのとこの家族と同じじゃないの”と大笑いされてしまった。

 そうです、我が家は家内と娘と家内の母との女家族、10年前まではマルチーズもメス、代わって飼った猫のアメリカンショートヘアがオスでようやく味方ができたと思ったら去勢されてしまった。私は同年代の男に比べてかなりの靴を持っている方だと思うのだが、確かに靴箱にスペースはほとんどない。そこで私は、家内のベッドの足許の方の梁に布の袋に入れた靴を10足ばかり吊している。気の毒な役員氏は、梁に釘を打つことも許されていないのかもしれない。
特殊清掃
特殊清掃
posted with amazlet at 13.07.25
特掃隊長
ディスカヴァー・トゥエンティワン
売り上げランキング: 164,990
ディズニー そうじの神様が教えてくれたこと
鎌田 洋
ソフトバンククリエイティブ
売り上げランキング: 1,763
事件現場清掃人が行く (幻冬舎アウトロー文庫)
高江洲 敦
幻冬舎
売り上げランキング: 100,152
新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?
遠藤 功
あさ出版
売り上げランキング: 2,822
▲ページTOP