|
TOP > ジャックの部屋 > からだにいい「清掃人」入門体験風 |
からだにいい「清掃人」入門体験風
|
01 60歳代で仕事がなくなるあなたへ
|
|
第一章
マンションは13階
北風に向かって水をまく
手鼻をかんでいるところを〝ウッチー〟に見られてしまった。
“びっくりしましたよジャックさん、しゃがんで口を押さえてホースから水かけてるから、ゲロ吐いてるのかと思っちゃいましたよ”
と言うので
“違うよ、手袋はずしてティッシュ出すの面倒だから手で洟かんだんだよ、しぶきが口の周りに残ったから水で洗ったのさ”
ということから、洟のかみかたの話になった。
“オレたちが子供の頃はティッシュなんかもちろん無かったし、ちり紙もまだ無い、少し金持ちの家は新聞取ってたから、その新聞切って持っていて、洟かんだんだよ。だけどその頃の新聞は紙もインクも悪いから、洟かむと鼻の下から口の周りがインクで黒くなっちゃうんだよね。そういえばウンコも新聞で拭いてたなあ。だからたいていの子は、今みたいに手で洟かんだのさ、それでその後口の周りに残ったしずくを服の袖で拭くんだよね。だから、みんな服の袖の辺りががゴワゴワでピカピカになっちゃうんだね、洟なめちゃうヤツももちろん居たよ。ウッチー、試しにやってみな”
と言ってやらせてみた。
“あっ、痛ってえ”と言ってウッチーは両耳を押さえた。
“ばかだねえ、片方ずつやらなきゃ、いっぺんにやったら鼓膜破れちゃうぞ”
“ジャックさん、先にそれ言ってくれなくちゃ”
なんてバカをやっていたら、体を動かさずにいたので急に寒くなってきた。
“少し早いけれど休憩にしよう、ということになって、ホースを溝側に寄せて水切り(通称カッパキ)を寝かせた。水を撒くのが私の仕事なので、元栓を止めてから降りるのも私の役目だ。
今日の作業はマンションの共用部分(エントランス、エレベーターホール、各フロアの廊下とテラス式の部屋に通じる外階段)の床清掃だ。このマンションは千葉市内、JR総武線沿いにある13階建ての巨大マンションだ。このRマンションはコの字形に建てられていて、エレベーターホールが三カ所。三人一組が三組と、3~5人が一組の4チームが二日がかりで月に一回行う定期清掃である。
このマンションの定期清掃は、ポリッシャーと呼ばれる回転する丸いパット台に、杉ブラシというブラシをはめ込み、洗剤の入った水を床に流しながら洗っていく。
ポリッシャーは組の班長の担当、私はその後ろで、丸いブラシが洗いきれない壁際などを自在ぼうきでこすり、ホースの水で洗い流していく。
私の後ろは仕上げの担当で、汚水が流れ込んだ溝に汚れが残らないように、モップで拭きあげながら、水を吸収するウエットバキュームで床面の水気を取っていく。
冬で風が強いので一時間もすれば乾くのだが、居住者が歩くときに床が塗れていることがないように、私たちを追いかけてくる。
マンションの共用部分の通路は、一般的には、いや、必ず北か北西に面している。9時から始める作業は実に風の通りがよく、水は立ったまま撒いていると、自分に降りかかってくる。従って中腰でやっていくのでかなり、腰にくるのだ。
実はこの仕事を始めて間もなくの頃、家に帰って熱いい風呂にしっかり浸かって食事を始めた間もなく、突然背中から腰が痛くなり、食卓の中央まで箸を伸ばせなくなってしまったことがある。
這いつくばって寝床までたどりついたが、夜中に目覚めても痛みがとれず、明日は休みの連絡を入れなければと思っていたところ、朝には何事もなかったように回復した。
翌朝スタッフに話をしたら、新人はよくやるのだそうだ。今朝の天気予報は最高気温5度、最低気温3度、休憩に降りてきたスタッフは皆一様に缶コーヒーを両手で抱えている。 |
|
Mueller(ミューラー)
売り上げランキング: 352
|
|