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からだにいい「清掃人」入門体験風
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11 今時はやらないけど ウンコには紙だ
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第十一章
ウンコは水、ではなく
やはり紙だった
転職のいきさつは少し後にして、アンモニアの香りが残っているうちに、もう一つの事件を。
今の私の職場は渋谷区にある商業ビル。
24時間、365日オープンのネットカフェ、まんが喫茶、ライブハウス、企業のPRショップなどが入るビルで、当然、年中、一日中ビルは人の出入りがある。二つの通りを結んでいる玄関は夜中も人通りがある。週末は玄関の死角(そんな場所は無いはずなのだが、結果を見せられると、なるほどここが死角か、と思わせる)にゲロや小便の跡が残っているのに、早朝の仕事でよく出会う。
ビルで働くおばさん達は土、日曜に休みを取る人が多いので、私は土曜日に、玄関担当のTさんの代わりに早朝6時から仕事に入る。12月のある土曜、出勤すると守衛が駆け寄ってきた。“すみません、シャッターと柱の間にうんこされちゃったんですよ、1時間くらい前に巡回したときは無かったんですけど……”
現場に急行! 寒風が吹き抜けているので、香りは残っていないが、現物は正にそこに。そう、形状を説明すると……食べ物に例えるのは控えたいのだが、他に説明のしようがないので……特盛りのもんじゃ焼きを落っことしてしまった、と言ったらいいか。大きさ直径50センチ、子細に見ると、ブツから同色の靴跡が裏通り方向に2~3メートル、3個~4個。反対方向へは出口まで、およそ7~8メートル、次第に影は薄くなりながら続いている。
私なりに推理してみると「とにかく、がまんできなくて、やってしまった。急いで(ペーパーは落ちていなかったので〝尻拭い〟はしていないのだろうか、それともハンカチでぬぐって捨てたか、ま、そんなことはどうでもいい)ズボンを上げ裏口へ、と、そこに人影が現れたので、これはまずい! と思いブツを踏み直して表口へ急いだ、足跡は玄関マットに届く前に消えた! といったところ。
守衛さんに、とりあえずオガクズかけといてよ、後で始末するから、ということで着替えに。小便は流すかモップで拭き取るしか方法はないのだが、ゲロとウンコの始末については、その形状や経過時間のこともあり、会社にマニュアルがあるわけではない。だいたいおばさん一人に一件ぐらいは体験があるが参考になる訳ではない。
実はこの事件から間もなく、PRショップの個室で、便器の脇にわざわざトイレットペーパーを四角に畳んで、その上にこんもりと上手に落としていった強者──おばさんは〝変態〟と言っていたが、がいたという事件もあった。
着替えながら作戦、何を持っていってどう処理するか。
まず、オガクズだけでは取りきれないと思い、控え室に残り少なくなったトイレットペーパーをはずしてきたロールが紙袋にたくさん残っているのでこれを5個。捨てるつもりでゴム手袋。これも捨てるつもりでよごれが多くなったタオルも5枚。汚れ落とし専用洗剤。とりあえずこれだけを持って現場へ。
ブツを前にしてしばらく考えたのだが、ふと思いついて、トイレットペーパーを紙吹雪にするように細かく千切って、ヒラヒラと大量にブツに乗せていった。やはり、ウンコにはオガクズではなく紙で、ということにしたのだ。
ブツは白いふわふわしているけれど、大盛りのお好み焼き風の体裁になった。そして四方から中心に、両手で包むように柔らかく、そっと寄せるように盛り上げにかかった。
ふしぎなことにこのときの手触りは、本当にお好み焼きを手にしたような、ほのかな暖かみが感じられたのだ。そうだろう、何時間か前までは体内で、栄養分は失われかけても、エネルギーの燃え残りとしてあったものなのだから。
学生時代から、バイト代が安酒に化け、飲むたびにゲロをまいて、何回かは自分で始末しなければならないこともあったが、あの脂ぎった、何の役にも立たない逆流物に比べて、こんな親しみのある感触にはまずなれないのだと思う。
ブツは、ほぼ一度でゴミ袋に収まった。三重に袋にいれて完了。むしろこの後の足跡消しの方が手こずった。まあ、そのまま置かれた状態のものと、踏みつけた汚れの違いが物理的に証明されたと言おうか。
この間、約1時間。残念だったのは朝一番の作業だったので誰にも見ていてもらえなかったこと、マニュアルとして残せなかったこと。確認できたことは「ウンコには紙だ」。 |
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