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からだにいい「清掃人」入門体験風
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09-1 いっけねえ ぶっ壊しちゃった その一
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第九章
仕事にトラブルはつきもの
とはいうけれど
その一
仕事にはトラブルはつきもの、と言ってはミもフタもないが、清掃作業には物損というトラブルがどうしてもつきまとう。従って清掃会社はそのための「保険」を用意している。
“だから臆することなく仕事をしていい”とは担当部長から言われていたのだが、物損は保険の保証はともかく、得意先への報告が必要なことはもちろんだが、マンションでは、とりあえず管理人に報告と詫びをいれるのが第一。事故を起こされて気持ちのいい人間はいないが、管理人には、ことさらに嫌な顔をされることが多い。
仕事場に出入り禁止されたスタッフもいる。管理会社への報告があるので、管理人にしても最も不愉快なことなのだろう。私たちにペナルティーはないが、気まずい思いをすることはもちろんだ。私自身が起こしたトラブルも含めていくつか紹介。
『盛り塩を流す』
江戸時代の旅籠で、旅人を乗せた馬が、長旅の疲れを塩分の補給のため塩をなめるために寄るところから、人寄せのため宿の前に塩を盛ったことが、料理屋や寄席などで客寄せの縁起として玄関前に盛り塩をするようになり、現代でも店の前にしているのを散見することがある。
目黒区にあるこのマンションは、千葉市のマンションで紹介したRマンションの系列。商店街にも近いバス道路に面している。SハイムとRの中間といったところで、子供と高齢者の姿をあまり見ない。
初めて作業に行ったとき、班長から、水流しをやっている私に“次、盛り塩があるから気を付けて”と言われ、マンションの扉の前、左右に塩が盛ってあるのを見た。
マンションが店になっているわけでもなさそうなので、多分住人がお店を持っているのだろう。水がかからぬよう、しゃがんで、水の勢いに気を付けながら流していく。このマンションには、この他にも盛り塩をしている扉があることを後で知った。
何回目かの作業の時、そろそろ盛り塩の扉だな、と思いながらホースを握り直そうとした。ところがこの時、ホースを持って行き来しているとホースが途中で撚れてくることがあり、ホースの撚れが持ち直した瞬間に手の中で〝遊んで〟取り落としたのだ。
失敗する時というのは意地悪で、モロに水が盛り塩にかかってしまった。“やっちゃった”と思わず叫ぶ。班長も塩を流すなんていうのは初めてだったようで、割に冷静。何と“コンビニで塩買ってきてやり直そうか”と言う、やってしまった私の方が“いくらなんでもコンビニの塩じゃまずいんじゃないすか”。
ということで、“この場であやまっちゃいましょうよ”とピンポンしたのだが不在のよう。こういうことは後回しにするとすごく落ち着かないので、すぐ管理人に話し、メモをもらってお詫びを玄関に。管理人もさしたる嫌な顔もせずに、後で話をしておいてくれることになって一安心。どうやら顔見知りらしい。
『額を割る』
私や同じパートのOさんは原則として土・日曜の作業はない。マンションでは人の出入りが激しい週末は作業を避ける。逆に土・日曜は休業になるオフィスの清掃があって(金融機関の店舗・オフィスは例外で土・日は完全にオフィスが閉じるので平日作業となる)この日は土・日専門のパートが活動する。彼らはウイークデイは各々の仕事を持っていて、休日専門で契約している。
従って彼らは、休日なしの働きっぱなしというスケジュールで、体力に自信のある若手が多い。彼らはまた日給制で、原則一日1万円、7時間労働、時給にすれば私たちより恵まれているし、空調の効いたオフィスの作業だから汗も落ちないし、鼻水も出ない。
一応、常識あるサラリーマン生活(自営もいるが)を送っているから……はっきり言って、清掃会社のスタッフとはちょっと違うよ、と思っているフシがある。Fさんや、ヤマさん、タカさんなどとは世間話をしながらやっているが、他のスタッフとは会話のコミュニケーションもあまりない。私は普段あまり顔を合わせる機会も少ないので、自分から話しをすることはない。
祭日が重なったりすると、彼らも家庭サービスをするのだろう、休勤務者が出て、私たちが臨時でオフィス作業をすることになる。
渋谷駅に近いオフィスビル。私は初めての現場。土・日パートの彼らにしてみれば私は臨時のパート、しかもジジイだ。なんとなくそんな感じ。ポリッシャーの次で、カッパキとモップの二役をやらされる。仕上げのワックスも土・日さん。担当したのは玄関につづく応接フロア。商談用のブースが8室ある。
前も後もけっこう早い、私は途中でモップを洗い直しに出るので、その分遅くなる。いくつ目かのブースでワックスに追いつかれそうになって、狭いブースの壁沿いを通り抜けようとして掛かっている額縁を背中に引っかけて落とした。
各ブースに絵が掛かっていたのだが、正直私は全く絵に気が付かなかった。“しまった、全然気が付かなかったよ”と言ったら“全部に絵が掛かっているでしょ”と、(“見れば分かるでしょ”)と言うわけだ。(“いつもの班長なら今日初めてのオレには、絵が掛かってるから、後ろ気を付けてね、ぐらいは言ったと思うけどね”)と言いたかった私。
班長が音を聞きつけて飛んできた。警備員もやってきて、どんな風に事故報告をしようかと班長と話し始めた。額のガラスはもちろん壊れたが、木枠はそのまま、絵もプリントの複製と分かった。私は“昼休みにガラスを注文してきますから、メジャーとメモを貸してください”と警備員に頼んだ。
東急ハンズの加工コーナーでガラスを注文サイズにカットしてくれるのを知っていたからだ。コトの次第を説明して、仕方がない、制服のまま昼飯抜きで東急ハンズへ、午後に30分ほど遅れたが、無事修復完了。始末書なし!
サイズどおりのガラスが出来て、絵がブースに掛かったときは拍手こそなかったが、皆少しは驚いたような顔だった。以後ウッチーは“ジャックさん背中で感じてね”が私への口癖になった。
『壁を壊す』
マンションの共用部分、通路の住居サイドの壁は装飾のタイルが貼られている場合が多い。衝撃には弱い。回転するポリッシャーが当たればはがれる。だから作業には、本体にプラスティックやゴム製のスカートをはかせる。
だから、壁側にはあまり近寄らないでポリッシャーを流すので、水を流す私がデッキブラシで壁側の床をシコシコと、いやゴシゴシとこする。壁に平行してやっていて突き当たりまでいったとき、おもわずブラシの木の部分をコツンと、ほんとうにコツンと! ポロッ! “あれ、落ちた”。5センチ四方ぐらいだ。この時の班長フッチャン、まるで待ってたように親方に携帯“すみません、ジャックさんに接着剤取りに行ってもらいますので、車開けてやってください”。あわてて車に、親方に頭たたかれる。
親方が直々に修理に。“ジャックさんこっちきてみな”と裏側へ、よく見ると同じくらいのひび割れの跡。“これ、こいつが仕事始めた頃にやっちゃった跡な”と。班長のフッチャンの最初の失敗の反対側に記念品を作ってしまった。次、だれがやるのやら。マンションのみなさんごめんなさい。力余って、少々修復している壁がいくつかあるのです。もちろん、デッキブラシでこする辺りなので、膝をついてのぞき込んでも分からないかもしれないんですけど。 |
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