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12 転職 清掃のプロに一歩踏み出す
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第十二章
清掃にだってある
ヘッドハンティング
私がS社の面接に行ったときに言われたのは、若い作業員とうまくやれるように、ということと、パート作業員は定着率が悪いので、なるべく長く続けてやれるように、ということであった。オフィスビルも増え、新規参入業者も多くなり社員の離職率も激しくなっていた。
仕事を始めて1年ぐらいは社員が離職することはほとんどなかった。男ばかりの集団でいわば体育会系な活動で、多少の〝いじめ〟は仕事上で散見されたが、これはその場で済むようなことで、もめ事が大きくなったりすることはなかった。一つには「親方」が親分的な存在であり、仕事が一番できる人間が一番働く、いうリーダーシップがあったからでもあった。
ところで、パート作業員は私のように不定期で働く者と「土日パート」といってオフィスビルの休みの日に清掃を行う者とがいることは前に書いた。
体はきつそうでも彼らは、平日の仕事とは違った〝気楽な作業員〟たちと、時には政治の話を聞かせてやったり、新聞ダネを解説してやったりと、気分よさそうに仕事をしている。私はめったに一緒にならない人たちだし、あまり話には加わらないので、多少敬遠されているようだった。
この土日パートの中には、別の清掃会社で管理の仕事をしているUさんがいて、〝自分の会社には絶対内緒〟でアルバイトしているのだという。
これとは別に、私たちのマンションの仕事場にスーツ姿で現れる者がいる。彼は勤務している会社で、朝の点呼を受けてから夕方まで営業に?? 清掃のアルバイトに駆けつけるわけだ。作業が続いていても4時半にはスーツ姿に着替えて帰っていく。
結果としてはこの二人が、社員の離職の原因となってしまったといえる。都心のビルのオープンにUさんの会社が清掃を受託し、Uさんが管理者となり、部下として〝おしゃべりたかちゃん〟がまずひっぱられた。まあ、こんな業界
でも水面下での工作があったようで〝冬でも半袖のH班長〟と〝世田谷そだちの坊ちゃん班長〟が同時に退社。作業の組み合わせがぎくしゃくしてきて、〝ヤマさん〟が〝トリ副主任〟と口げんかで同調、〝本好きのスーさん〟は嫌気がさしたか、病院の仕事に移っていってしまった。
班長クラスが数名いなくなると現場はきつくなる。ウッチーが班長に昇格したが、給料が上がるわけでもないし、責任だけおっかぶされていやだ、とぐちるようになった。補充されたのは日勤(ビルに常駐している作業員)の者数名、“特掃班の仕事はきつい”“やめたい”とぐちが絶えない。そしてスーツの清掃マンが、会社をやめて?! 仲間と入社してきた。
こうした環境が訪れたのは仕事をはじめて2年になろうとした頃で、この年の7月に入って急に仕事が減った。私の場合は遅くとも一週間前には作業日と場所がFAXで送られてきて、都合の悪い日があればキャンセルすればよい、という私の仕事としてはまことに都合のよい不定期の仕事だったのだが。
10日ほどは全く連絡が無くなり、これはそろそろ潮時かと、もう一週間だけ待ってみようかと待機したが音無し。会社も苦慮しているかもしれない、と気を利かせたつもりで、辞職届と洗濯したユニフォーム、靴(もちろん、こんな物を使い回しするわけもないが)などを宅配便で会社に送った。翌日、部長からあるマンションの常勤の仕事があるが、と連絡がきたがお断りした。
そうしてみると、なんだか無性に掃除の仕事がしたくなってきた。この頃、新聞の求人を見ることが多くなり、土日に新聞の折り込みで入ってくる求人チラシもよく見るようになった。
しかし、今までのように不定期の物件はなかなか見つからない。目立つのは早朝の仕事だ。わたしが頭で納得したのは、朝早く仕事に行って昼前に帰ってくればその後はずっと仕事に時間を割ける、という定期の物件になっていた。会社のしっかりしていそうなものをいくつかピックアップ。
初めに電話したところは、女性のみの求人ということだった。因みにということで聞いててみたところ、たとえば「男性募集」とか「女性求む」とか性別を決めての募集表現してはいけないらしい。チラシをよく見直したら「女性が活躍中」と書いてあった。なるほど。
二件目の電話では、広告の物件はすでに決まっているが、他に同じような物件があるがと誘われ面接に。
この面接で「定期清掃の経験者」というのが、かなりの手みやげになることを初めて知った。以前ヤマさんが言っていた“この仕事を一通り覚えたら、かなりの経験者になるよ”と言っていたことが本当だったわけだ。まさか掃除の世界で免許などはないものの、「経験者」になれるとは思ってもみなかった。“なんだ、私も清掃の世界じゃいっぱしになったじゃないか”
ということで新しい職場に。打って変わっておばさんたちが幅を利かすところに足を踏み入れることになったわけだ |
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