食べ歩き　全国家庭料理４７選

01　鹿島灘はまぐりのすき焼き

　もうすぐ雛祭り、雛祭りといえば、飾り物にも食事にも欠かせないのが、はまぐり。昔から貝合わせといって、貝に絵を描いて同じものを探すカルタのような遊びが雅な事としてありました。貝はどれも同じように見えますが、大きさ、ちょうつがいの違いで同じものは二つとしてないのです。そこで、夫婦の縁(えにし)として、また、結婚式や雛祭りのおめでたい席には欠かせない食材になったのです。

　このはまぐりを求めて、当時全く知識のなかった私は、昔からの芝居の科白(せりふ)“その手は桑名の焼きはまぐり”を思い出して、桑名に問い合わせました。電話に出た方は笑いながら“今は鹿島灘のはまぐりがいちばんです”と。砂の柔らかさ、浅瀬の加減など鹿島灘が最も適した漁場になっているのです。しかし、地元漁協では乱獲を避けるため厳しい自己規制を行っています。漁の日程、時間までが規制されています。そんなおかげで一般に出回るはまぐりより大きな良品が収穫され高級食材として提供されています。　

　漁を見に行ったとき。明るくなってからの一時間ほどの操業になるそうで、港に暖かさと明るさがあふれ始めた頃に港に船が帰ってきました。上げられたはまぐりは選別台に移されて整理されていきます。

船から上げられて選別場に並べられる

　はまぐりといえば、焼きはまぐりと潮汁くらいしか調理法を知らなかったのですが、前夜泊めてもらった民宿のご主人から“うちじゃ宴会のお客さんは、まぐりのすき焼きを楽しみに来る人も多いんですよ”と聞かされてちょっとびっくりしました。

　最近は「蛤鍋」として、ねぎやきのこ類を敷き詰めて蛤を入れるシンプルな料理を出す店も多いようですが、私はここは豪華にすき焼き蛤にしようと、分けていただいたはまぐりを持ち帰りました。

　すき焼きって豪勢な食事だけれど、酒飲みにはちょっと面倒なところがありますね。ちびちびやっていると“ほら、そこのお肉もう煮えてるから、早く食べないと硬くなっちゃうでしょ”なんて声がかかるし、今度はぐい飲みちょっと置いておいて肉つまもうとすると“まだ早いわよ、ちょっと赤いでしょ”なんてしかられたりする。その上“全くすき焼きってあわただしくて”なんて愚痴られたりね。

　まあ、それだけ元がかかっているんだから、おいしく食べなきゃ、ということなのですが。従って、このはまぐりすき焼き風もそのタイミングを計るのに、肉以上に緊張感もって食べなくちゃいけません。煮すぎるとすぐ硬くなるし、早いと生臭さが残ります。仕方ない、はまぐりを食べ終わるまではお酒はちとストップ。よく煮えて味のついた白菜、ねぎ、豆腐、などで、ゆっくり酒を味わいました。

●はまぐりは水からゆで、口があいたら取り出しむき身にする。また、保存するには殻つきのまま水に漬けずにそのまま冷蔵庫で保存します。氷も解けて殻に水分が入ることもあるので入れないほうがいいでしょう。1週間くらいは保存できます。
はまぐりのすき焼き

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