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八月の納涼歌舞伎は三部制

第一部は『恐怖時代』と『竜虎』
八月納涼歌舞伎のチラシ

八月は納涼と銘打っての三部制で、昼・午後・夜に分かれている。
今回の招待は一部の午前11時から午後1時半までの二狂言。

『恐怖時代』は、谷崎潤一郎が大正時代に書下ろした戯曲で、殺戮の連続という返り血いっぱいの話で発禁処分になったものとか。
戦後に、武智鉄二や観世栄夫の演出で上演されたこともあるらしい。

今回主役のお銀の方を演じる中村扇雀は、最初の予定では小姓・伊織之介を演じるはずだったようだ。
予定の配役だった中村福助が病気療養中のため、お銀の方に変更になったらしい。
美男で藩随一の剣の使い手・伊織之介は、現在坂田藤十郎の父が扇雀時代に演じて、谷崎潤一郎に絶賛されたという曰くつきのもの。

その役は、今回は中村七之助が演じている。
白塗りの若々しい美男ぶりは、扇雀ではちょっと年が行っているかも…。
「若造とか、子供とか」馬鹿にされている役なのだから。

今回は、新派の演出で定評のある斉藤雅文氏が依頼を受け、台本を修正しての上演とか、と言われても、ユフィには全く分からないので、チラシの受け売り。
東京新聞・かぶき彩時記で、扇雀が語っている。

「あまり血を見せることが眼目にならないようにします。元芸者のお銀の方は様々な男性と関係を持ちますが、伊織之介には本当に惚れていたと思うので、女性の心理をウソっぽくならないよう演じたい。最後に伊織之介と自害するくだりは、動機が分かりにくいので台本に加筆します」とのこと。

この最後の二人が刺し違える場面まで、血がいっぱい流れて凄惨な場面も多く、衣装は真っ赤になってしまうし、「すぐ落ちる特別な血潮を使用しているのかな? 衣装代が大変そう」の場面の連続なのだ。
恐怖時代の看板

これでも控えめと言うことは、初演は大変だったのだろうなぁ。
戦後の演出も武智鉄二や観世栄夫という異色の二人だから、血しぶきが客席まで飛んだりして、控えめにしても大変だった様子だ。

ちなみにリサーチしてみたが、血糊の処置の方法などは出ていない。
ひとつ、舞台を駆け巡る大道具の人の、真っ赤に染まった足袋などは、1回の洗濯で真っ白になるらしく、写真付きで出ていたから、落ちやすい血糊なのだろう

しかし、蚊帳や大広間の殺戮で真っ赤に染まった衣装や畳(ゴザ)の処理はどうしているのか、全く記述は無いのだけれど、誰が教えて!
変なところに興味がいってしまって、はなしがなかなか進まない。

話は最初に戻って、夏の御殿で、密会する殿様の側室と家老の場面でも「」。
庭には蛍が見られ、家老は夏羽織の薄物姿なのに、女性達は綿入りのお引きずりで、とても暑そう。
何人殺されたのか、数えてはいないけれど、「まあ、次から次へと人が殺されて血しぶきが…」の連続で、最後は御殿の広間での殺し合いの騒ぎに

懐妊している正室暗殺のお銀の命におびえる茶坊主が中村勘九郎で、その怯え振りや驚く様がとても可笑しくて印象に残ったのだが、これが気に入らない向きもあるようだ。
曰く「笑う芝居ではない」のだとか
ともあれ、さすがは勘三郎の跡継ぎらしい演技だった。

多分美しく魅惑的なのであろうお銀の方は、化粧も悪女らしいためか、大勢の男を虜にする女性には見えなかったから、七之助の美男ぶりばかりが強調されていて、ちょっと残念。
これが美男美女の物語なら、血の連続も納得なのだが、配役も難しいよなあ

同伴の長年の友がひとこと「面白くなーい」だって。
まったくの同感だったけれど、今回も空いていたから、舞台はよおく見えたので「ま、いいか」。

2階席のあるロビーで昼食を摂って、次の幕へ。
歌舞伎座に来る際はいつも、銀座のデパート地下でお弁当を買って来る友人に任せたので、今回はしっかり落ち着いて食べられた。

『竜虎』は舞踊劇らしい
竜虎の看板

おどろおどろしい太鼓の音で始まったから、「またお化け?」と彼女。
「威厳と激しさでせめぎ合う英雄達の舞踊」なのだそうで、天の王者・龍と、地の覇者・虎の争いが舞踊によって演じられる。

舞台いっぱいに描かれた竜虎も白黒で、大きな岩や雲が迫力満点。
義太夫が地の舞踊としては新作らしく、初演が1953年(昭和28年)の「蓑助・延二郎」の組み合わせだったらしい。

1999年に歌舞伎座で「八十助・染五郎」、2008年に新橋演舞場で「愛之助・獅童」で演じられているらしい。
細かく調べている人がいるんだなあ。

『連獅子』などで馴染みのある『冠』とか言うらしい長い毛のついたものを被っての舞踊で、2回もの衣装の引き抜きもあり、毛振りをする所作がとても多く、飛んだり撥ねたりして、とても大変そう、息が上がっちゃうね。

ところであの被りものの正式な名前を知らなかったのでリサーチした。
「冠」とか「毛頭・けがしら」とか、能で使用する場合は「獅子カシラ」とか呼ぶらしいのだが、どうもはっきりしない、出てこないのはなぜ?
ユフィは漠然と『獅子頭・シシガシラ』と頭に残っていたけれど…。

今回は「龍を獅童」「虎を巳之助」で演じていたが、体格が獅童のほうが上背があるのと、「へえ、結構踊れるんだ」との感想から、獅童が目立っていたように思う。
なんと言ったって、前回の虎としての経験がある訳だから、踊れるよなあ。

龍は黒毛、虎は茶毛で、見慣れた獅子の赤や白とは全くの別ものの雰囲気。
最後は場面転換して、静かな海と空で舞い納める。
古典は古典で疲れるけれど(唄の文句が難しくて分かりにくい)、新作もなんだか疲れるよなあ。

友人の歌舞伎友達のお婆様からは、この2ヶ月間はお誘いが無かったらしい。
一緒に行く人が他にいらしたのね。
この方「月に何回も歌舞伎を見ていて、席では大部分は寝ていらっしゃる」とか。
「歌舞伎座のみではなく、歌舞伎がかかった劇場全てを見るから」とのこと。

「行くことに意義がある」とでも言うのだろうか。
でも、そういう方がいらっしゃらないと、歌舞伎は続けられない!


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