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ゴミ(清掃員)から見た病院の日常 入院前にお読みください
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01 ナースが喰らっている 毎日のお菓子
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○FEULLAGE Asortiment
モロゾフファヤージュ
○Gateau RUSK
「GOUTER de ROI」 Gateau Festa Havada
○colombin
コロンバン
○LES FINANCIERS
「フィナンシシェ」 アンリ・シァルパンティェ
○AMANDE ROIS Foucher Paris
アマンド・ロワ フーシェジャパン
○清月堂本店
○花色しおん
○中央軒煎餅
○「ニューヨークライブラリー」
サマーフルーツタルト グラマシーニューヨーク
○CHOCOLAT AVEC MAKADAMIA
マカダミア・ショコラ (株)ヴィタメールジャポン
これ、最近10日間ぐらいの間に、ナースステーションの控え室からゴミとして出された缶や函の、菓子のメーカーや商品名であります。いわずと知れた退院する患者の家族から、病院への感謝と御礼の意味の贈り物であります。こんなものメモして、なんと、ジャックの意地の汚い、なんて思わないでくださいよ。
私は今、都内のある大学病院で清掃の仕事をしています。
当サイト『からだにいい「清掃人」入門体験風』でも書いていますが、体育会系の清掃集団で仕事をしている時の主任クラスだった「スーさん」から、突然携帯に連絡がありました。スーさんはもともとは、調理師で店舗で働いていたのですが、アトピーがひどくなってきて、仕事が続けられない、と転職してきたのです。おとなしい人で、メンバーの中では唯一、休憩時間に本を読んでいる人でした。
彼が辞めた、と聞いた時はしばらく仕事が途切れた時で、挨拶も出来ずじまい。病院の仕事に就く、と後で聞きました。
“ジャックさんしばらく、まだ特掃班でやってるの”といわれて、いや、日勤の人が大分こっちにきたり、日曜定期のパートさんが鞍替えしてきたりで、2週間も仕事がない状態があったりしたので、辞めて渋谷にあるオフィスの早朝の清掃に変わって、日曜以外は毎日仕事している、という報告をしたのです。
“ジャックさんなら出来ると思うんだけど、病院の仕事、日勤なんだけどやってくれないかな。人が足りなくて大変なんだけど、ちょっと特殊な現場なんで、誰か居ないか考えていたんだ”とのことでした。
幸か不幸か、この頃本職は、月に一度、ユフィの料理の仕事で地方に出かける程度で、朝だけの仕事も中途半端状態。せっかくご指名にあずかったのをありがたく、お受けすることにした次第でした。
仕事は追々紹介していくとして、病院の朝もまた早い。日曜・祭日は外来休診ですが、もちろん入院患者は休みなしで、仕事もシフトになりますが、休みなし。
8時半の診察時間までにやらなければならないことがあるので、朝は特に忙しい。内科の病棟を担当することになった私、ここでは8時に夜勤の看護師と日勤の看護師が、引継ぎのミーティングをします。夜勤の看護師は7時過ぎには仕事を終えて、ナースステーションに戻ってくるので、一番の仕事はステーションの掃除から始まるのです。
夜勤の間に食したカップのスープやスナック菓子の空き箱が一番上に乗っている、45L入りのゴミ箱を片付けながら、看護師の控え室から出るゴミと一緒に出てくるのが、冒頭の菓子の缶や箱なのです。
虎屋の羊羹、三笠山のどら焼き、いずみやのクッキーくらいならジャックでも知っていますが、ほとんど今までお目にかかったことのない品ばかり。もちろん、名だけで中身の分かるものもありますが、今時の銘菓は知らぬものばかり。もっとも、こうした銘菓を自宅用に買って召し上がっているのは、本当の名家で、頂き物でもないかぎり、庶民が味わうことはなかなかむずかしいものばかりです。
このリストには入っていませんが、実は毎週のように出てくるものがあります。『銀座 C CのM』という菓子。病院の最寄り駅であるビルに支店を構えるメーカーで、もちろん東京を代表するものなのですが、手近で済ませる人には便利でなのですが、看護師たちには“またっ”てな具合に、あまり人気のないものになっています。時々、我々清掃員にもおこぼれが回ってくるのですが、おばさんたちでも“またっ”ていう按配、おじさんたちでも小生意気に“Mだよ”なんて声がかかる。
ジャックはありがたく頂戴して持ち帰り、ユフィに“はい、お土産”と渡す。もちろん、喜んでもらえます。
こうしてみると、病院でお世話になったときの菓子類は、ちょっと一工夫が欲しいということになりますか。誰でも知ってることは安心感もありますが、むしろ自宅に近い、ご当地の菓子などのほうが、ありがたがれる、といえましょうか。私たちが何年も味わっていない、いや、一度も味わっていないような菓子でありますが、昨日看護師になったようなねえチャンが、ペットボトルをラッパ飲みしながら喰ってる、いや、味わっていらっしゃるという思いは、ゴミ廃棄所に缶を放り込みながら、消しとんでいくのですが。
菓子のお下げ渡しで、うれしいことがあります。時々、同じ看護師ですが、4~5種類の菓子をブレントして4~5個ずつ袋に入れて“お掃除の方たちに”といってくださるのですね。他の病棟でこんなことをする看護師はいないようなので、彼女の裁量、きっといい仕事してるんだと思えますよね。
フシギなのは、『ゼリー菓子』があまり人気がないようなのです。テーブルに広げられたまま数日、ということがあります。高価なものだと思います、きっと年配の方がお持ちになったものだと思われます。ゼリーはかなり甘みの強い菓子なので、苦味のあるお茶でないと釣り合わないのでしょうか。クッキー類が日常の人には、ちょっと敬遠されるのでしょうか。
控え室に掃除に入った時に、たまたま看護助手が制服の整理に入ってきたりすると“いつまでももったいない、もうだらしないんだから、ジャックさん持ってって”と私のズボンに突っ込んで空き箱にしてしまうこともあるのです。控え室に持って帰っておじさんたちに渡すと、いきなりかじって、あまりの甘さにむせ返る初心者がいるのも、おかしいのです。
話が前後しますが、後日仕事で入ることになる「救命救急センター」では、少し事情が変わってきます。ここは文字通り、集中治療の患者が入ってくる病棟で、一般病棟に比べて、看護師の患者に対する看護・治療の時間・頻度は比べ物にならないくらいです。しかしながら、軽い心臓発作で運ばれた患者は翌日に退院したり、逆に専門のリハビリ病院に転院したり、一般病棟に転棟する患者さん・ご家族は、あまり看護士とのコミュニケーションがないままにこの病棟を後にするためか、ご家族からの「差し入れ」はあまり多くありません。
そこで、一般病棟の主任さんや看護師長さんが、時折、菓子の箱をお下げ渡しにやってきます。出されるゴミの箱に「○○病棟からいただきました」なんていうメモが貼ったままになっています。まあ、目にするのは私だけだからかまいませんが。
こんなお菓子に包まれている中で、面白いのは地方のお土産品。看護師たちが休暇で旅行した時の土産なのです。圧倒的に沖縄の菓子、北海道の菓子が多いようですが、帰省したときの地元の菓子の箱などが混じっていることが多くて、しばらく眺めていることもあるのです。
私は内科病棟で一度だけ、退院する中年のご夫人から、直接にお菓子箱を頂戴したことがありました。気さくな方で、私も掃除に入りながら世間話などもしたのですが、退院されるとき、看護主任さんから“ジャックさん○○さんからですよ”と渡されたのです。原則、私たちは患者さんから金品を受けてはいけないことになっているのですが、この時は“患者さんからあなたに渡して欲しいといわれたものなので、かまいません、私たちは別に頂いていますから”と言われました。もちろん丁重にお礼を申し上げに伺いました。
私は幸いにも入院経験がないので、退院時のお礼などで心配したことはありませんが、患者さんの中には、どうしたらいいか、経験のある人に相談することもあると聞きます。また、公立の病院ではこうしたことを一切禁止しているところもあるといいます。
まあ、せっかくの頂き物なので、看護師諸君、ペットボトルなんかじゃなく、たまには急須でも用意しておいて、マイ茶碗で、おいしく頂いて欲しいものだと、つまらぬことを考えながら、今日もゴミかたずけ、やってます。
●いずれもゴミとして出されたお菓子の缶、あまりにきれいなので持ち帰り、ジャックのつまみ入れとして活躍している3点。左・Garin Blume 中・不明 右・チロリアン |
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