「死」の百科事典
人は「死」について、いつ頃から意識し始めるのでしょうか。
ジャックの子供の頃は、死、というものは、お化けだとか、幽霊などの怖いものとして、例えば「悪さ」をしたときに親から“そんなことしてると、便所でお化けが出るよ”なんて脅されたものです。今の時代、トイレが暗い、なんていう家はそうありませんが、私の実家も、便所は長い廊下の向こう、ちょっと地方へ行くと、母屋から離れた場所にあって、真っ暗な便所に行くのは子供にとって、かなり勇気のいることだったのです。
私が死を初めて体験したのは小学校3年のとき。男5人女1人の6人兄弟の次兄が25歳で病死したときのことです。感染するからと、2階の部屋で闘病していた兄の近くに行く事が禁じられていたので、死、そのものに会うことはありませんでしたが、家族はもちろん
、近所の人までが悲しんでいるのを見て、初めて人が死ぬことの様子を体験したものでした。
祖父母、父母、兄弟と10人家族だった我が家は、当然のように年を経る毎に死を迎える事になります。小学6年の時には祖父が老衰で。(この時、私は『猩紅熱』という、少し前までは法定伝染病だったものに感染。全身に発疹が出て、治癒するごとに全身の皮膚が剥がれ落ちるというやっかいなもの。1ヶ月以上学校を休んでいる間だったので、同級生が“ジャック君が死んだみたい”と言った事で学校が大騒ぎになった、というエピソードがあります。後日父親は“死人と間違えられると長生きするぞ”と言ったのを今でも覚えていますが、はて、どうなりますやら)。
高校1年で祖母が。母は大学卒業の春に癌で、父はその翌年卒中で。と、同年代の人に比べると、かなり高い確率で、死、と向かい合ってきました。
オマケに、現在は病院の清掃仕事、担当しているのが「救命救急センター」ということで、他の病室に比べても死に接する頻度の高い環境にあります。時には、交通事故で搬送された方がなくなり、急なことで家族にも連絡取れず、もちろん葬儀社も呼べない状態で汚れた床を、看護師さんから“とりあえずお掃除しておいて”なんて、無くなった方横目で見ながらお仕事なんていうこともあるのです。医師、看護師は別にして、私ほど死に直面している人間も珍しいかもしれません。
ちょっと前置きが長くなってしまいました。
紹介するのは
「死」の百科事典 デボラ・ノイス 著 千葉 茂樹 訳 荒俣 宏 監修
あすなろ書房 刊 オールカラー158ページ 2.800円プラス税
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文字通り「死」についての、古今東西、歴史、科学、伝説、慣習、風習、事実、などなどを網羅したものです。事典なのでアルファベット順に書かれていることは、死について順に呼んでいくと、アットランダムに死のことに触れていきます。また、索引は日本語の事項が並んでいるので、ここから読みたいものを拾っていくというのも、手、です。
巻頭言は 『死ぬのって、きっとすごい冒険なんだろうな』 ピーター・パン
私が始めに引いたのは『盂蘭盆』。ユフィの母の盆が近かったこともあって。我が家では新盆のときから「迎え火」「送り火」をしています。この件は、当サイト『和室』「仏壇物語」をご覧ください。
この写真でも見られるように、たいてい、キュウリとナスに割り箸を刺して飾りますが、私はこの本読むまで“キュウリは馬に見立てていて、一刻でも早く家に来て欲しい願い。ナスは牛に見立てていて、お帰りになるときは、なるべくゆっくりお帰りになって欲しい、という願い”という意味を持っているのだ、ということを知りませんでした。
まだ全部を読んでいないのですが、日本語索引から引いたいくつかを紹介します。
『自然死運動』
いま、様々な葬儀の形式が話題になっています。予算にあわせた、大げさでない、環境にやさしい葬儀をめざすこと。死にいたるまでの生活の質を高める事が書かれています。また、人は死を不快なもの、遺体を扱うことにおじけづくこともあるけれど、愛するものの遺体を扱うことは、ある種の特権、と書いています。
『水』
ヒンドゥー教徒と聖なるガンジス川の話、多くの文化圏では、墓地に埋葬した後、死者が戻ってこないように、道に水を流す習慣があること、日本では「三途の川」を渡る、という言い伝えかありますが、ギニアの人の間では、死者の魂は三つの川を越え、山を一つ越えてようやく平穏に至る、という考えかあるそうです。
死者は何度でも水を渡らなければならない、という考えは多くの国や地方であるようです。「水の都」といわれるベニスでは、輸送の問題もあるものの、遺体をゴンドラに乗せ、墓地の島・サン・ミケーレ島まで、会葬者たちも水上を行くのだとか。
『臨死体験』
8月10日の産経新聞に、愛媛県・八幡浜市の病院で82分間の心停止から蘇生した62歳の男性患者が後遺症なく退院した、という記事が載っていました。
お盆の時期になると、よく雑誌などで臨死体験の記事が出るので、こうした項目には私も気が惹かれます。この患者さんが臨死体験をしたかは分かりませんが、この事典では代表的な例が書かれて今するまた、著名人が臨死にあった例が名前だけ列挙されてもいます。
『早すぎた埋葬』
この事典で最もミステリアスに読めるのは、この項だろうと思います。
現在では人が亡くなったときは、医師の死亡診断書が必要になります。このように科学的に早すぎた埋葬を防ぐ目的とした協会が設立されたのは1896年のイギリスにおいてのことだそうですが、それまでは様々な方法で死者を確認する方法が、多々かかれています。
1720年、ペストが蔓延して、町の人口の半数が死んだと言われるフランス・マルセイユでは町中に死体があふれ、死後数時間で埋葬されてしまったという例もあります。この項の中でも最もミステリアスなのは、出産直前に死んだスウェーデン人の女性の墓が、協会墓地で採掘されたところ、棺の中で赤ん坊を生んでいた、という実話。
●写真資料もおもしろいものがあります。左は「迷信」についてのページ。右は「通夜」についてのページから。
●コラムもいろいろ、これは「ペスト」について。
●左は連続殺人の記事、切り裂きジャック(親戚じゃないよ)の報道写真。右は「祠堂」の記事。被害にあった人へ、花や飲み物を手向けるのは日本でもよく報道される。これは、9.11ニューヨークテロの祭のもの。
真夏の夜に、少し読書で涼むというのは、いかがでしょうか。
『幽霊』という項目もあり、西洋の文学作品から、日本の歌舞伎の世界の霊界の話など学究的な話も盛りだくさんです。 |