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アイスランド発ミステリー DV=家庭内暴力がテーマ
「緑衣の女」
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最近の海外ミステリーは、北欧の作品が話題の多くをさらっています。2005年に刊行された「ミレニアム」シリーズ、スウェーデンの作家 スティーグ・ラーソンの作品はベストセラーとなり、続いてデンマークの作家 ユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Q」シリーズも今年で4作目が刊行されて人気シリーズになってきました。
そして昨年、アイスランドからアーナルデュル・インドリダンの「湿地」が発売されると、年末のベストミステリーのほとんどを受賞するという展開になりました。
その作家の日本での刊行2冊目となる『緑衣の女』が発表されました。北欧のミステリー大賞である〔ガラスの鍵賞〕と〔CWAゴールドダガー賞〕を同時受賞した作品です。
この本のあとがきには、この『訳者あとがき』は本文のあとにお読みください
とわざわざ断り書きがしてあります。特にミステリー小説の場合、あらすじや構成をあとがきに書くと興をそがれる、ということで詳しく書かない、という場合は少なくありません。私もそうですが、ミステリーに限らず、まずあとがきから読むことがほとんどです。作品の「環境」を知った上で読みたいと思うからです。
子供たちの誕生祝いの最中、一人の幼児がしゃぶっている白い陶器のようなものが、人骨に間違いない、と言い出した若い医学生の言葉から、レイキャビクの新興住宅地の土の中から人骨が発見され、そこから、話がスタートします。
発掘を担当することになった考古学者の慎重な作業で、遅々として進まない日と共に、主人公の刑事の娘・「妊娠7ヶ月でありながらドラッグにおぼれ、父にSOSを発信して意識不明のまま病院に運ばれる」を看病しながら、刑事の過去を切れ切れに娘に話して聞かせる刑事の人生が表れます。
一方、時間系列に関係なく、一組の家族の姿が語られます。夫婦と長女、二人の男の子。この父の、妻に対するすさまじい暴力が、この書の実はテーマになっています。訳者が訳を進めるか迷ったというほどのものです。子供への罵詈雑言もあります。ページを進めるのがためらわれるようですが、とにかく家族のことを思うとページを進まざるを得ない、読者も苦しい展開です。
前作の「湿地」では、静かな物語であるのに、章の最後の一行で、次の章へ頭も目もぶっ飛ぶような展開だったのとは、同じ作者とは思えないほどです。この「湿地」では『あいつ』という死んだ老人の書いた謎のメッセージがひっぱりますが、「緑衣の女」では、この家族に昔家を貸していた老人が、死の間際に残した『いびつ』というメッセージが残されます。
この老人の話に出てくる、緑のコートを着た女性が何者なのか。『いびつ』とはなんだったのか。
発掘されていく人骨。家族の中、勤務していたアメリカのキャンプからの物資横流しで投獄された父の不在の間に起こる、劇的な変化。依然、意識が戻らない刑事の娘。
完全に取り出された人骨の事実、遂に果たされた緑衣の女性への聞き取り、大きな晴れ晴れとした結末には至りませんが、激しい暴力の跡、読者の心を優しくするミステリーとして今年の大賞も見据える作品といえます。
私が読んだ数作の作品評には見当たりませんでしたが、この作品は『障害者』がテーマになっているように思えました。何の予告もなく始まる父の激しい暴力も、作品の中では解説されませんが、ある種の人格的障害と思われます。幼児で障害を受けることになり、その障害を自覚し、表面に出すことで暴力を避けることになる長女。家族の変化をきっかけに、障害を持つことになり、それゆえ、おだやかな人生を送ることになる長男。
先の「湿地」でも、遺伝という障害が、大きな謎とテーマとしている作者です。
『緑衣の女』 アーナルデュル・インドリダン 柳沢 由実子 訳
東京創元社 全360ページ 1800円+税
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