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自衛隊員とは、どんな人たちなのか(東北大震災で)

兵士は起つ 自衛隊史上最大の作戦     杉山隆男 著 (新潮社)



 この本は、東北大震災で活動した自衛隊員一人ひとりの証言を元に構成された、ノンフィクションです。
 私たちが、様々なメディアで見、聞き、読んだどんなものより、現場で、その渦中にあって、自衛隊員でなければ成し得なかった体験のひとつひとつで、震災の全体を、ひとつとして、私たちに教えてくれるものです。

 表題の自衛隊員とは、ということに対する一つの言葉に出会うページがありました。遺体の収容に動揺する隊員たちが踏みとどまれたのは『ヘルメットに迷彩服、弾帯と呼ばれるベルトで腹をきちっと締め、自然と半長靴の踵と踵が合わさって、気お付けの姿勢を取るよな、自衛官としての身なりで固めていることが、背中に一本すっと通った、心の張りのように、自覚と使命感の大きな拠り所になっていた。』(本文157ページ)
 また、破壊された福島原子力発電所の処理に当たって『中央特殊武器防護隊は、放射能を正しく怖がっていた集団だ、だから正しく防護もできるし、正しく躾も徹底されている』(本文189ページ)
 ごく一例ですがジャックの目を引いたものです。

 数々の実例、例えば実際に津波に飲み込まれ、死中に活路を得た隊員がいたこと、そして、生を得た瞬間から、最も早い救助を、極寒の水の中、敢行したこと。
 高校を卒業したばかりの19歳の隊員が、遺体の収容に直面し、最初に収容したおばあさんの、ずぶぬれの服から隊員の迷彩服を濡らしたそのままで、一夜明かさなければならなかった時の正直な気持ち。
 二人の幼児の母でありながら、自衛隊員であるために、無事を確認しながら二ヶ月も会えなかったことなど、一つ一つの例を全て紹介したくなる本書。とりもなおさず、本書を読んでもらいたいということになりますが。

 「こうして自衛隊が注目されるのはいいことなのかもしれないが、本来自衛隊とは、目立たないほうがいいのではないか、自衛隊が大きく報道されることは、それだけ大変なことがおきているのだから」
 本書の巻末近くで語られるある隊員の言葉も心を打ちます。
 本文 全271ページ 1600円


 杉山 隆男氏には、代表的な「自衛隊 三部作」があります。
 『兵士に聞け』1995年刊  全542ページ (新潮社) 2000円
 陸上自衛隊をルポしたもの。自衛隊を代表するレンジャーに同行した記事が圧巻。

 『兵士を見よ』1998年刊 全493ページ(新潮社) 2200円
 航空自衛隊をルポしたもの。戦闘機に実際に機乗している。

 『兵士を追え』2005年刊 全510ページ(小学館) 2200円
 海上自衛隊をルポしたもの。潜水艦に長期取材している。



各自衛隊には、それぞれ標語があって
 陸上自衛隊のそれは 『用意周到』
 航空自衛隊のそれは 『勇猛果敢』これには下の句があり『支離滅裂』
 海上自衛隊のそれは 『伝統墨守』
意味するところの詳しくは、前著・205ページに

 杉山氏の最近の刊行物に昭和特別一日』 (新潮社) 全254ページ 1575円
があります。この中には、自衛隊航空・松島基地所属の「ブルーインパルス」が49年前の東京オリンピックで、国立競技場の空に、五輪のマークを描いた時の、隊員の訓練の様子が詳しく書かれています。
 訓練ではなかなか成功せずに、当日ぶっつけ本番状態で、見事成功した逸話が紹介されています。杉山氏によると、この五輪マークを見られたのは、渋谷区、千代田区、文京区の一部の人だったとあります。
 我が兄・カズンは、その数少ない目撃者だったそうなのです。当時、学費を稼ぐために、学校に行かずに文京区にある出版社でバイト中、昼休み、駐車場脇でキャッチボールしていて見たそうです。会社のほとんどの人が、外に出てきて、空を仰いでいたてそうです。
 これも見逃せない一冊です。


 杉山氏の著書とは違うが、最近テレビドラマ化された、自衛隊を舞台にした小説があります。
 有川 浩 著 『空飛ぶ広報室』 全462ページ(玄冬舎) 1600円
 これはフィクションですが、部隊の兵士ではなく、いわゆる背広組である防衛庁内の、航空自衛隊の広報課を舞台にしたものです。広報課という、民間と自衛隊の接点である仕事を取り上げたものです。世間からの軋轢を受けやすい、難しい立場の広報課。登場するのは、あのブルーインパルスの乗員を目指しながら、本人とは直接責任の無い事故で職をはずされ、失意で広報課に配属された隊員と、あるテレビ局の女性ディレクター。
 お互いに反目しながら、次第に理解に、そして協力関係になっていく小説です。自衛隊をいかに、民間に理解してもらうかに苦労する様を読むと、兵士たちのルポとは、また別の面からの自衛隊員の姿が見えてきます。

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 杉山氏は、1986年に刊行された『メディアの興亡』 全676ページ(文芸春秋) 2000円
で大宅 壮一ノンフィクション賞を受賞しています。
 現在では、新聞のカラー印刷で美しい風景や、生々しいニュースを見られるのはあたりまえになっています。この書は、こうした現在の新聞メディアの黎明を書いたものでした。コンピューターによる新聞創りなど、思いもよらなかった時代の画期的な発想と実行の様子を書いたものです。

d@5eqe1
 マスコミを志望する若者、メディアを目指す者たちには、原点となるこの書を、是非とも立ち返って読んでもらいたいものです。
兵士は起つ: 自衛隊史上最大の作戦
杉山 隆男
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