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餞別 そして 錫

 詳しく書くとネタばれになるのですが、当サイト、ジャックの部屋「◇清掃人」で書いているように、私は都内のある大学病院の救命センターで仕事をしています(いました)。ところが2014年9月末『諸般の事情』で、会社がこの仕事から撤退する事になってしまいました。諸般の事情については、また連載で書くつもりですが、今日は別題。

 撤退が決まったのが一週間前、ということで、世話になった全ての方にご挨拶することも出来なかったのですが、丁度6年6ヶ月の勤務の最終日なんと一人の看護師さん、二人の看護助手さん(いずれも女性だよ)から餞別を頂いてしまったのです。えっ、掃除のじいさんに餞別ですか。もう、嬉しかったですねえ、これはご紹介するっきゃない。

 看護師のYさん。中堅どころの人、東北大震災の際は、ただ一人応援に派遣されました。彼女は私の仕事がスムーズに進められるように、常に病棟の状態、現在判明している清掃予定されている病床などを的確に指示してくれていました。数十名いるセンターの看護師の中でも、唯一、私の仕事を病院スタッフのと同じように理解してくれていました。こう書くとおかしいのですが、私達清掃の仕事は、病院の中ではドクター、看護師を始めさきざま働いている人たちの中では、インドのカースト制度に照らせば「最下層」の仕事と見られています。まあ、しゃあないんだけど。

 彼女から“お世話になりました、受け取ってください”と渡された時はほんとうにびっくりしました。おまけに、握手まで。
 頂いたのは、メッセージカードと瓶に入ったカラフルな輪切りのかわいらしいキャンデー。一見、ジャックにはミスマッチ、いえいえ。私事ですが、同じように人様にちょっとしたものを差し上げる時は、私の一番好きなものを“私の好きなものなので”と言ってプレゼントすることにしています。Yさんも、多分、そんな気持ちで贈ってくれたのだと思うのです。それに、ジャックにかわいいキャンデーなんて、おしゃれじゃないですか。
カラフルキャンデーメッセージカード
食べるのもったいないようなきれいなキャンデー 9×5.5センチのカードに172文字、看護師さんたちは共通の患者さんに数名が、逐一容態のレポートを細かい字で書いています。悪筆ジャックには信じられない美しい文字が綴られていました。

 看護助手のWさんは、院内の全ての部署で使用する医療器具の消毒・管理をする部署の主任さん。仕事の接点はあまり無かったのですが、同じフロアでいつも顔を合わせて挨拶していた人。看護助手さんの中では一番明るい、といった印象。“本当にありきたりのもので恥ずかしいのよ”と言いながら頂いたもの。「バーバリー」のハンカチ。いえ、こうした高級な小物って、正直自分であまり買わないものですよね。これ一枚、お出かけする時にバッグやポケットに入っていると、とても安心感があるものなんです。
 それに、ジャックにバーバリーなんて、人を見てるじゃないですか。ねえ。
ハンカチ
●ジャックにはうれしい、こげ茶のハンカチーフ、ナンか歌ができそうだ。

 そして、看護助手のSさんからは“ジャックさん、一生物よ”と渡されたもの。手触りは四角い箱状、“杯かな”と思いましたが、それにしては重い。ちょっと見当が付きませんでした。ちなみにSさんには、仕事場では、ただ一人だけ『やま玉』の読者になってもらっています。
 家に帰って空けてみました。なんと、『錫の杯』。これは確かに一生もの。実は当サイトダイニングの「五月一日は 冷酒の日」で、暑くても寒くても五月一日からは冷酒、暑くても寒くても十月一日からは燗酒という一項があるのですが、この日の合わせてくれたようなタイミングです。翌日の晩酌で初飲みしたのはもちろんのこと。
錫のぐい飲みを持つ

 そしてこの錫の酒器、同封された栞によると『お酒の味は容器によって変わると言われています。錫の器に入れたお酒は雑みのないまろやかな風味になるといわれ、また燗付きが早くより芳醇さが増し、保湿性にも優れていますので酒通には大変喜ばれています。』とあります。
 まあ、飲酒感はその時の気分にもよるのでしょうが、ただ言えるのは、燗酒を杯に入れた途端、錫の杯自体ががすごく熱くなって伝わってくる事は確かです。逆に冷たいものを入れると、より以上に冷たく感じられるものなのです。
ぐい飲みの箱としおり 錫のぐい飲み本体

 1983年には通産省(現在の経済産業省)から伝統的工芸品「大阪浪華錫器」として指定されています。
 これ以前から、大阪のおでんの名店(大阪ではおでんのことを『関東炊き=かんとだき 』とよんでいますが)『たこ梅』では、客にこの錫の杯を出すのを慣わしとしていて、同じ錫の「たんぽ」で燗をつけたものを注いでくれるのを伝統としています。ジャックも大阪出張の折、何回かお世話になっています。

 海外でも錫の土産は有名なものがあって、シンガポールでは、錫製品が人気です。シンガポールに旅行に行く、と聞いて、錫の食器を買ってきて、とリクエストする人が多いのも確かです。
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