市川染五郎or野村萬斎or羽生結弦
夢枕獏の人気小説シリーズである『陰陽師・安倍晴明』は、数々の演劇や小説・ 漫画・ゲームなどでも、非常に人気が高いようだ。
平安時代の国家が管理する陰陽寮の官人であり、『天文道や呪術』に長けていたとされている。
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そんな安倍晴明は、千年の時を越えてなお、人々の興味をかきたてる存在であることは間違いがないのだろう。
後々まで語り継がれる様々な伝説が存在し、前世や先々の出来事を見ることができ、呪術から人を守り、京の都に結界を張り、魔物を調伏したり、と言い伝えられてもいる。
ある種の『スーパーマン』といえる、実在の人物でもある訳だ。
現在でも「安倍家陰陽道」は続いているようだし、安倍晴明ゆかりの「神社」は各地に多く残されていて、パワースポットとして人気も高いようだ。
この9月には、単発ドラマ『陰陽師』がテレビ朝日系で放送され、前宣伝が華やかだったし、記憶にも新しい。
歌舞伎俳優の市川染五郎主演で、KinKi Kidsの堂本光一が相棒の源博雅役で共演している。
2013年に新開場した歌舞伎座のこけら落し公演として、特別に歌舞伎化された『陰陽師』を、染五郎が演じたことからの出演らしい。
全編を通し、奥州藤原氏ゆかりの地である「岩手県奥州市」で撮影されたとか。
平安時代の雰囲気を感じさせる舞台装置や環境は、セットでは大金が掛るだろうし、ロケ地も難しかったのだろう。
「ハハア、なるほど」となんだか納得してしまったのは、スケール感が小さくなった理由。
この手の物語が大好きなユフィは、人気者二人の共演はともかくとして、どんな『陰陽師・安倍晴明』が見られるのかと、興味深々で一応は見ていた。
「何故だろう、怪しい雰囲気と重厚さが足りない」が、一番最初の印象だった。
時代考証はキチンとされていただろうし、もちろん衣装なども整っていたのだが、鬼が出るような怪奇さが「薄い」と思ったのは何故だろう。
「おどろおどろしさ」が薄いのか、デジタル処理が巧みすぎるのか、怖いというよりは「ヘエー」と言う感じ。
染五郎のなんだか晴明も頼りないし、光一君の博雅も殿上人と言うか貴人の雰囲気が薄いし、美男同士の組み合わせなのに「なんだかピッタリ感がない」し…。
素顔に近い薄いメイクも、衣装に負けている風で、訴え方が弱いのかも知れない。
今までにも多くの俳優が演じてきた安倍晴明に、及ばないんじゃないかな。
2001年に、フジテレビ『陰陽師☆安倍晴明 王都妖奇譚』で三上博史が演じている。
同時期に、NHKでスマップの稲垣吾郎主演で連続ドラマ化もされたとか。
この2本は全く知らなかったから、見てはいない。
更に2001年と03年に、狂言師・野村萬斎主演で2度映画化もされている。
これは何年か前に、テレビ放送でしっかりと見ている。
ユフィの勝手な思い込みだが、晴明役は萬斎が一番ぴったりだと思う。
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三上版はリサーチのポスターしか知らないが、一応雰囲気は怪しげでOKかも。
稲垣君はNHKの配役ミスではないのかな、ネットの動画で見たけれど…。
まだ若かったから当然重みがないし、所作も時代物には慣れていないし、特に時代物でも平安時代のものは衣装も特別だし…。
この時代の衣装、特に殿上人のものは、厳しく決まりごとがあって難しいのだ。
着こなしがこなれていて、動きが自然だったのは、萬斎だけだったと思う。
なにしろ、狂言と言う古典演芸の世界に住む人なのだから…。
同じ古典芸能の歌舞伎役者の染五郎は、人気は上でも格が違うように思う。
「能・狂言」の古さは、特権階級から始まった室町時代からの継承であり、「歌
舞伎」は江戸時代に始まった庶民の芸能であるということ。
格上や格下で論じるものでもないだろうが、重厚さで言ったらどちらが良いかは見なくても分かるはずだ。
原作者が『晴明役は野村萬斎以外は無い』と言ったほどなのだから、当然と言えば当然ではあるのだけれど…。
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更に言えば「衣装が素晴らしい」のだ、萬斎の晴明は白を基調にしていたから。
狩衣(かりぎぬ)と呼ばれる服装は、『狩や蹴鞠など野外の遊び着』として着用するものなのだが、肩の袖の前部分が開き、大きく刳った襟元からも、下に着たものが覗くように仕立てられているので、視覚的にも色彩的にも非常に美しく映えるのだ。
ポイントはこればかりではなく、袖を絞るくくりの紐も同色で揃えられている。
青・薄い水色・濃淡の紫や朱だったりして、場面や雰囲気でガラリと変化が付くから、とっても見応えがあってしかも美しい。
特に舞ったり、飛んだり、呪術を行ったりの場面では、生き生きとしている。
この狩衣は、現在も神職の服装として用いられるそうだ。
萬斎自身は美男ではないが、能面に通じる品の良い容貌で、表情の変化が素晴ら
しいのは、やはり狂言の世界観からなのだろうか。
ともかく、ファンの間では各晴明役のファンが、長い間喧々諤々のようだ。
そんな中に、この秋冬シーズンに活動を始めたフィギュアスケートの羽生結弦選手が参戦したのだ。
野村萬斎主演の「映画 陰陽師」の曲を選択した『SEIMEI』で10月のカナダ杯で優勝。
Although his jumps weren't all there, Yuzuru Hanyu presented programs worthy
of an Olympic gold medalist. -Skate Canada/Stephan Potopnyk |
「待ってました」とばかりに、フリーの全曲を見たのがつい先日のこと。
感想は『若い晴明も頑張ったかな』と言う感じ。
フリーの一曲に「4回転が3回」組み込まれていて、全てが飛べた訳ではないから、このシーズン中完璧を目指して突っ走るのだろう。
解説にもあったが、笛や太鼓の日本的な調べに乗っての演技は、「日本人には普通に見えるが、海外にはエキゾチックで美しく感じられる」だろうだって。
衣装も、狩衣の部分的なデザインが施されていて、基調は白だ。
動きの激しいフィギュアスケートの衣装らしく、全体的にシンプルになってはいるが、襟元と肩から覗く紫、縁取りの若草色、開いた袖口に覗く紫、若草色と紫の重なったくくり紐、地紋が浮いた白い上着に散らしたラインストーンは、金と若草色とブルーで模様が浮き出されていて、全体的に若さが強調されている?
男子フリーの演技でポーズを決める羽生結弦=バリー(共同) |
ユフィ的には、袖口は広く開き、ウエストから垂らした裾ももっと長くして、ひらひらと舞う感じにした方が、晴明らしくて流動感が出るように思えた。
ただし、動作の邪魔になることもあるから、なんとも言えないのだが…。
女子の場合はヒラヒラした衣装も多いのだから、もっと強調しても良いのでは。
9月に結弦君は萬斎氏を訪問、能舞台上で対談し、細かい動作や演技の指導も受けたらしいから、一つ一つの動きに想いを込めた演技ができるようになったのかもしれない。
萬斎から直接指導を受けた羽生結弦選手、果たして彼を超えられるのか、楽しみになってきた。 |