結婚しました 披露宴やります
23年11月、ジャックと私の連名で宛名印刷された、白い封筒が届いた。話に聞いていたが、ジャックの実家の姉(義姉)の孫娘(通称ユーリ)からのもの。披露宴の案内状だ。
彼女は、高校・大学と音楽学校に通うため、葛飾に住んでいる義姉の家に、山梨の両親の家を離れ、7年間同居していた。ジャックも何度も会っている。現在はあるコンサートホールで事務の仕事をしながら、ソロ演奏する人のピアノ伴奏をしたり、数年前から突如初めた三味線の腕を上げ、お浚い(おさらい)会では、トリの前を務めるほどの、和洋二刀流で活動している。
お相手(通称トクちゃん)は、大学の職員をしながら、書家として活動していて、各地での会に忙しい、こちらも二刀流の、背の高いユーリよりも背の高い、細身の男、ジャックは義姉の家で一度会っている。
『小さな結婚式場』はアットホームな会にしたいという、二人の思いで決めたらしい。
サーヤは案内状を見て「これで親戚の中で最後だね」と言う。50を過ぎた娘の言葉に感慨深いのはユフィだけ、ジャックは常々言っている「これで得体の知れない男は…」と思うばかりのようだ。要するに嫁にもやりたくないし、婿も欲しくない。可愛いのは、6歳になるベンガル種のアムール君だけ。は、余談。ついでながら我が家の近況は。
サーヤ本人は全く結婚の意思は無いので、静かに両親を見送りひとり暮らしに入る準備中。世田谷の一軒家を建て替えのつもりだったが、会社近くのマンション暮らしを希望。約3年の月日を掛け、想い通りのマンションを見つけた。転居して来て早6年、ユフィは買い物が不便なのが唯一の欠点と思っている、が…。ジャックはベランダに好きな草花を育て、眼の前の公園の『春は桜、芝生の緑や木々』を楽しむ日々。午前中は猫のおやつや猫草を買いに出かけ、近くの公園まで足を延ばし、悠々自適の生活に大満足の様子。
ユフィは週に2回のカーブス(女性のための体操教室)と、足が弱ってきたので「おうちカーブス」も始め、以前NHKで紹介していた、マンションの階段下りをしている。少しでも足弱を解消するため、週1の整体も通い、巻爪で月1回の「爪切」に銀座にも通い…。そんな状態の我家にこの『結婚式招待状』は、波乱を呼んだのだ。
場所がすごく近い
招待状には、ゆりかもめに乗って「お台場」で下車、徒歩2分とある。若い二人の住まいは「埼玉県三郷市」だから、遠い…、義姉の住まいは葛飾でまあ近いかな…。ともかく我が家が一番近い訳。
バスで豊洲に出て、ゆりかもめに乗って行くのが最短。でもなんだかんだの騒ぎの末、タクシーで向かうことになった。ラッキー、歩くのが遅いユフィは嬉しかったし、楽できるのがなんとも有り難い。
サーヤが予約してくれ、1時間の余裕を持って向かう。支度に手間取り、ユフィは大騒ぎ…、スカートが入らない事態に焦った…。前日に確かめて置かないのが悪い、とジャックに怒られるし、苦しいし…。
お台場までは、今まで通ったことの無い大通りをぐんぐん進み、道端のすすきの群れに感嘆し、まるで別世界の中を行くみたい。5月の「サーカス」観劇の際にも、サーヤとタクシーで通ったのとは違う道みたいだ。観たことの無い高速道路とゆりかもめの高い線路の中、広い道路を行くユフィは「未来の世界」に向かっているような錯覚を感じていた。私達にとってお台場は、別の街か。昨日観たニュースでの「空飛ぶ車」の幻影も観たような…。
若い世代でいっぱいのビル
タクシーがきちんと送り届けてくれたのに、人に物を尋ねるのが嫌いなジャックがどんどん歩き出す。周りは若い世代ばかりの世界…。二人でウロウロしていると、「どこをお探しですか」と40代くらいの女性が声を掛けてくれた。こちらは一応正装だし、若い人たちに混じってとても目立ったのだろう。親切にタクシーで降りた前のビルを教えてくださった。戻りました、乗りました、4Fまでの長いエスカレーターに。
眼の前のビルの案内板に「小さな結婚式」の名を見つけてホッとしたのもつかの間。嫌に人が多く、騒がしいし、エレベーターは下階にしか行けないし…。その内に案内嬢が「11時にエスカレーターが動きます、お待ち下さい」と言っているのに気づき、待ちました。この階は映画館らしい、でも団体客を案内する女性も居て、ともかく騒がしい…。
今までの暮らしでは、渋谷に近かったし、下北沢にも近く、若者も人出も経験済みでも、この騒がしい雰囲気は…。目立ったろうな、グリーンのベロアの上着を来た老人と、白黒チェックの上着と黒のロングスカートの老女は…。
9階が目当ての式場
やっと動き出したエスカレーター、ともかく若い人ばかり、疎外感は半端なし。9階に行く人は少なく、やっと着いたから案内板で確認。どうもビルの端っこに居るらしい、反対側に『小さな結婚式場』は位置するみたい…。時間的に余裕があったので焦りはなかったが、このビルは凄く横に細長い…。しかも廊下が真っ直ぐでなく、デコボコと店が続く迷路みたいだ。「火事になったら死ぬな」「ウン」二人の会話も物騒だ、とても結婚式に行く雰囲気では無い。
やっとそれらしき所に出て、ホッとした。服装がそれらしいから、すぐに案内されて控室らしいところに。友達は呼ばないと聞いていたが、中年から老年の招待客が多い…。皆さん、どこから上がっていらしたのか。疑問の内にやっと親族に会えて、ホッとしたついでに聞いてみた。この式場の側に、駐車場から上がれるエレベーターがあるらしい。義姉の家族も、ぐるぐるあたりを探し回って、ようやく着いたとか。
実は少し心配していた。 昨夜パソコンで調べたとき、詳しい説明は付いてなかったし、写真も小さな式場らしく簡素だったし…。花嫁の衣装も、廊下に展示されていたもので、しかも茶色や黒という奇抜なドレス…。食事もビュッフェスタイルしか載っていなかったのだ。
義姉は87歳元気だ!
そうこうしている間にやっと控室で義姉に会えた。御年87歳、ともかく元気で若々しい…。今年春に近くの船着場から、屋形船で河めぐりをした際も、7歳も年上なのにユフィよりずっと元気。トットと歩くし、話し声ははっきりしているし、老女の感覚で居ると調子が狂う。その義姉が、嬉しそうに周りの方に挨拶しているのを見ていると「良かったなぁ」としみじみ思った。控室では、もう一人の孫、新婦の兄の1歳くらいの女の子と奥さんにも挨拶した。こうした所に赤ちゃんがいると、いっぺんに場が和む。
とっても綺麗で可愛い…
そうこうしている間に、式場の用意が整って入場。
とても明るい部屋で、式段の後ろのガラス窓の向こうには「レインボーブリッジ」が観える。
時折黒くて大きな鳥が飛び交うのはなんだろう?海鵜かも知れない、我が家の窓からもよく観るから。
そして、まず、花婿さん入場。
続いて花嫁の入場、大きな体の父親と腕を組んで、背の高い全体にスラリとした新郎、新婦が案じたよりも素晴らしい姿で入って来た。白いタフタ調の裾を長くひいたウェディングドレスには、腰から裾に白い花があしらわれている。
あれ、この娘ってこんなに顔が小さくて可愛かったんだぁ。
物凄く綺麗で優雅で『最高の花嫁』、幸せをいっぱいもらった!
入り口で母親がベールで顔に隠してあげて、式は始まった。
人前式の形で二人で誓いの言葉を述べ、長椅子に置かれた鈴を鳴らしてお祝いし、サインをして戻る際、花びらを蒔く。式次第は滞り無く済み、記念写真を様々に人を変えて写した。そして、どこで会食になるのかと思っていたら、少し戻って小さなレストランに案内される。きちんとテーブルが整えられていて、小さいながら本格的なフランス料理のよう。ジャック良かったね、これなら食べられる…。後から義姉に聞いたところ、今回に結婚式がレストランの開業だったらしい。
殆ど一流のホテル並みで、はい、味もサービスも満点でした。トイレに立ったジャックは、ネクタイをお気に入りの外国製のものにお色直しして戻ってきた…。
二人も席に着き披露宴は盛り上がる
グレイの正装の新郎と、ウェデイングドレスの新婦が席に着く。
ここでやっとジャックに写真を撮るよう促した。式でも皆さんスマホで撮っていたのに、我が家はまだ撮っていないから…。
サーヤが楽しみに待っているから、写真もお土産にしたいのに…。数々の引き出物やテーブルの花かごももらったけど、ともかく写真が一番!、遅まきながらスマホで取り始める。
しばらく新郎新婦も食事を楽しみ、お色直しに席を立つ。その間に前菜から始まってのフルコースを頂いた。もちろんジャックは、乾杯のシャンパンに始まって「ビール・日本酒・赤ワイン」とフルコースだ。味も良く、酒類も豊富で、ホテル並みのフルコース。義姉は二人の姉弟の結婚式も盛大に行ったから、きっと満足している筈。窓側の席は新郎側、壁際の席で「義姉と新婦の両親と義理のお母様」と隣同士。
このお二人のオバァ様が健啖、ジャックもサーヤもユフィの食欲をいつもからかうが…。
それどころじゃない、見事に綺麗に平らげていました、気持ち良いくらいに…。年取って食えなくなったらおしまいだよね。
お色直しの間に、新郎新婦からの招待客にお礼の言葉が読み上げられた。我々にも新婦からの『温かい言葉』が、サーヤには直接で無くジャック宛に『いつも素敵なお洋服をありがとう』と。サーヤのお下がりを沢山もらってもらったのだ。
お色直しは和装で
新郎は白っぽい羽織袴、新婦は洋風のヘァに花を飾った打ち掛け姿。小さな結婚式とはとても言えない本格的な結婚披露宴だ。代わる代わる招待客も一緒に写真を撮った。
新婦がしっかり食べている様子に、ユフィは安心した。昔の花嫁は食べられないか、食べる雰囲気にはなれなかったが、最近の花嫁はよく食べている…。
ユフィの場合は、渋谷の松濤にあった料亭での挙式・披露宴だったから、とても食べられる状態にはなかった。ともかく衣装と鬘が重いし、「料理が美味しい」との感想は聞こえるも、食べる雰囲気ではなかったものだ。
新婦の母親の挙式の際は、小さなサンドイッチを差し入れた覚えがある。食べられたかどうかは…。少しだけ食べたと後で聞いた。
それが、現在の花嫁は疲れも緊張もあるだろうが、ぱくぱくと美味しそうに食べていた。
お二人のお祖母様も健啖家、血筋は争えないと言うか…、皆様お元気でなにより…。
新婦側の来賓は、音楽大学時代のピアノの先生夫妻と、6年前に始めた三味線の師匠夫妻が目立っていた。そして、異相の上着のジャック、普通の人には見えないよね…。
ひとり濃いグリーンのベロアの上着で目立っている…。
最後にコーヒーとウェデイングケーキを頂いて、お開き。
出口で新郎新婦が見送ってくれて、「小さな結婚式」は無事終了。
私達の仲人で結婚した義姉の息子夫婦の車で送ってもらい沢山のお土産付きで、凄くホッとして帰途に着く。 |