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ジャックの化粧マン生活

目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その2

この化粧品の実態は、いったい何なんだ
 というのが、まず私が知りたかった事。化粧品輸入販売を掲げているからには、もちろん厚生省(当時)始め、関連機関には『成分表』が届けられていて、結果、今までの販売実績にはなっていました。しかし、この成分表見ても、どんなものなのかはさっぱりわかりません。現スタッフたちは、もちろん、何もわからずに商売していたわけです。これでは説得力ありません。
 そこで、輸入業務担当の万能社員アオキさんに輸入元に聞いてもらう事にしました。“小じわが無くなる、というこの商品の成分のポイントは何ですか、販売するセールス、買ってくれるお客さん、販売する店員さんに分かりやすい説明が必要です”と。

 数週間して返事が来ました。アオキさん、英文訳しながら“ジャックさん、これは分かりやすいや、聞いて見るもんだね”と人事のようでした。
“この商品の特質の一つは、球根に含まれる成分です”というのが説明の骨子。オランダはチューリップの栽培が盛んなところは、誰でも知っているところ。この球根に特性があるのだとか。詳しい成分の抽出は教えられないけれど、一般の人たちにはこのように説明してもらってかまわない、というのが返事の内容でした。
 これは分かりやすくて説得力があります。商品の説明はこれで充分。

 もう一つ私が必要としたのは商品ディスプレイでした。商品自体は8ミリ×40ミリほどのプラスティックの円筒形の容器にはいっています。これを赤い縁の20ミリ位のクリスタル風の四角いスタンドに収まる形状、見た目はまあ、高級化粧品の体裁。ただ、これを、化粧品店のケースに入れても目立ちません。ちなみに当社は(もう、私はれっきとした、部長待遇の社員、なにしろ社長と、万能社員で専務のアオキさんしかいませんから)このセクレーヌの単品商売、一般の化粧品メーカーのように商品群がありませんから、配置スペースを確保するのが難しいのと、商品説明を売り場で見せる事ができません。

 私が作ったのは、10×15程度のシルバーの縁のある写真立てに、白地に黒一色で女性の眉と目だけを描いたイラスト。下に、『小じわをかくすセクレーヌ』だけの文字。このイラストは編集仕事の時代に世話になった、いや、こっちが原稿料払ってたので、世話をしたイラストレーターさんに、当時よりはるかにいい原稿料で描いて貰ったものでした。
 ところで、この『小じわをかくす』というフレーズ。なかなか表現がビミョーで、本来は小じわを一時的にのばす、あるいは、消す、と言いたいところなのですが、あくまでも化粧品としての効果としては、表現してはならないところで、一点で踏みとどまった、といったところだったのです。

 赤い商品台とシルバーの額、くろい目と眉、なかなか見栄えのいいものだった、と自画自賛。あまりスペースもとらずに置いてもらえるようになりました。

 ここまで二ヶ月あまり。いよいよ、初めての問屋セールスへの説明会です。
 私は物を売る上での物流の流れ、いわゆる問屋商売というものには全くの素人でした。問屋は東京で最大手といわれるO商店、他に数社あります。当時はこのO社の系列の問屋が各都道府県にあり、他の問屋も同じように他府県に系統の取り扱い問屋を持つ、という商いの仕方でした。
 商品を売る、ということは極端な事を言えば、問屋のセールスにどれだけの興味を持ってもらって、商品を取ってもらえるか、ということでした。それだけ問屋セールスの化粧品店への信頼、販売力は大きかったのです。商品が店に入る、それからはメーカーの販売促進のためのコミュニケーションが必要になってくるのです。これ、当たり前の事ですが、編集バカの私には、初めて知ることばかりでした。

 
O商店のセールスは約40名。すでに商品を扱ってもらっているので、ある程度の商品知識は持ってもらっていました。セールスの中には、こうした特殊な化粧品を扱うのが得意な者、大量物流を扱う者、男性化粧品担当者など、担当や得意な商品によってある程度のグループがある、ということもこれまでに分かってきました。全員がこの商品に興味を持っている、ということではないのです。
 この商品の使い方は、人差し指にボトルの口を当て、逆さまにして指先に一滴、を目元に塗ります。持参した数本、とにかく商品説明の前に使用法を説明して、手の甲に2センチ程度のまるに塗ってもらいます。“高い商品なので塗り過ぎないように”と少し笑いを取ります。セールスの人たちは男性用品を除いて、実際に化粧品を使う経験がないので、興味は大きいようです。

 こういうとき、全員にテストがいきわたるまで待ちます。急いで話し始めてもきちんと聞いてもらえません。初めにテストした人は塗ったところを気にしながら説明を待つ、といったところで、ディスプレイを取り出してセット。説明を始めます。
 全員に成分表を配ってあります。しかし、理解はできません、けれど大事な事です、まず、肌のテストをしており、敏感な肌にも今まで問題がないことを説明。いよいよ、球根の話。オランダの輸入品であることを改めて紹介。“ところでオランダで有名なものは何でしょう”とクイズを振ります。答えが出ないで気まずくならない内に“チューリップは知ってますね”と本題に。この辺りで先ほど塗ってもらった手の甲を実感してもらいます。
 セクレーヌは、正直どんな人にも効果があるとはいえません。これはどんなものでも共通な事。目元の小じわの質によって効果が違うのがあるように、手の甲の跡に“えっ”という声も“かわんねえ”という声も。いいんです、何人かが効果を確かめてくれれば。

 説明会15分程度。次の会社の説明があるので、テスト商品を残して終わり。
 終わって帰りの車の中、社長“お前の説明はなかなかうまかったけれど、買ってくれとは一言も言わなかった”とクレーム。まあ、そういえばそうだけれど、買って貰うための説明会で買ってくれというのもスマートじゃない、というセールス根性の足りないジャックの一日は終了。

 この後、順次全国の問屋を回って説明会を繰り返し、ジャックの化粧品マンの生活が始まる事になります。


この記事は連載です。
 ジャックの化粧マン生活
  目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その1
  目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その2
  目尻の小じわを隠す 不思議な化粧品 その3
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